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豊穣圏(Enriched category)


 モノイド圏Mが与えられているとする。圏CのHomが集合ではなくMの対象であるとき、CはMでenrichされているという。日本語で訳すと豊穣圏と呼ぶらしい。もちろんそれ以外にも合成に関してMのモノイド構造を採用し、単位元、結合則の条件も付け加えなければならないのだが。
 
 一番の例は位相空間(compact generated weak Hausdorff)の圏である。この
Homにはコンパクト開位相によって位相空間と見なす事ができる。つまり、位相空間は位相空間でenrichされているという事になる。小圏も集合の圏でenrichされた圏と思う事もできる。一般のenriched categoryの参考文献としては、【BS】が入門用として書かれてて、もっと詳しくはKellyの【Kel05】なんかを見るといいと思う。Enriched categoryのcategoryはもとのmonoidal categoryの情報を多く反映する。例えばsymmetricやbraidalだったりする。locally presentableやlocally boundedといった性質に着目したのは【KL01】 である。通常、enriched categoryは対象を選んでHomの対象を決めて定義するが、対象を選ばずとも余加群の構造に着目し、集合と射の対象のペアに構造射で定義する方法もある【Tam09】
 そのほかにも、代数の世界ではHomが加群になっている圏を考える事が多い。一般にk-加群でenrichされたcategoryをk-linear categoryと呼んだりする。一点集合を対象にもつk-linear categoryはk-algebraを意味する。群が作用するk-linear categoryのcoveringを定義しているのは【Asa08】である。ここではGrothendieck constructionのk-linear versionが登場する【AK11】。元は【CM03】のskew categoryから来ているようだ。特に群の作用がfreeの時は本当のquotientの意味でのorbit categoryが定義できる。k-linera categoryのGalois coveringなども【CR04】【CRS07】で調べられている。bimodule categoryへの群の作用を考えているのは【Dro08】である。
 さらにDGMがenrichしたcategoryをDG categoryと呼ぶ。これはtriangulated categoryの前段階として、triangulated categoryよりもhomotopy論の操作が色々できると注目を集めている。基本的なことはKellerなどがまとめている【Kel06】。例えばこのcategoryのmodel structureを積極的に推し進めているのはTabuadaである【Tab05】【Tab04】
 Simplicial setがenrichしたcategoryをsimplicial categoryと呼んでいろいろな事に応用しようという動きもある。もともとはmodel category自体がsimplicial setでenrichしている場合を考える事がよくあるし、model categoryのsimplicial localizationを行うとsimplicial categoryになるらしい。Simplicial localizationはDwyerとKanによる2つの論文を見るといい【DK80】【DK80'】。また、simplicial categoryのcategoryにmodel structureを考えているのはBegnerである【Ber04】。彼女は他にも、simplicial categoryがSegal category、quasi category、などとも関連が深いことを【Ber07】で述べている。DwyerとKanのsimplicial localizationの一般のenriched categoryへ拡張を考えているのは【Dun01】である。
 一般的に、モノイドモデル圏がenrichした圏全体を考えて、モデル構造が入るかどうかという問いについては、 【BM12】 を見るといい。

 Monoidal model categoryからはsimplicial localizationにより、derived endmorphismが得られる。【KT03】ではそれがsimplcial 2-monadであることが示されて、その応用としてsimplicial monoid上のbialgebraのderived endmorphismがHochshild cohomologyになると述べられている。
 面白い例として、非負の実数の集合R^+を通常の順序でposetと考え、small categoryと思う。これは実数の積により(symmetric)monoidal categoryとなり、距離空間をR^+でenrichされたcategoryと思う事ができる。
 Leinsterはenriched categoryの一般化としてfc-multi categoryのenrichというものを考えている【Lei02】。またBraided monoidal categoryのenriched categoryのmorphismを深く考察しているものもある【For03】。  

 Enriched categoryはobjectは集合で考えるが、objectもmorphismのobjectと同じ対象になっているものをinternal categoryなどと呼ぶ。こちらの方が2つのobjectとstructure mapの情報からできて、安易といえば安易である。良くあるのは、集合の圏でのcategory objectはsmall categoryで、位相空間の圏でのcategory objectはtopological categoryで、small categoryの圏でのcategory objectはdouble categoryと呼ばれるものである。small categoryにおけるgroup object、逆にgroupにおけるcategory objectとcrossed moduleとの同値を示したのは【Bar02】である。【BM04】ではgroup objectの表現を考えている。